日々是劇評

関東圏内で観劇した舞台について率直に感想を書いています。
自分用の備忘録みたいなもんなんで遠慮なく辛口な批評もしています。

絞り込み 記事更新日=「2012/08」

STUDIO HeadZ 8月公演 「鴉命(ウンメイ) 言葉と景色と色の中に」  @高円寺明石スタジオ 2012/08/21
芝居塾記念公演 「紅い海、剣と十字架 天草四郎物語」  @神奈川県立青少年センター ホール 2012/08/20
劇団メリーゴーランド 音楽劇「夢守の鍵」・ストーリーショー「エターナル・シー」  @文京シビック小ホール 2012/08/19
川崎インキュベーター主催公演 「光る時間(ひかるとき)」  @ラゾーナ川崎プラザソル 2012/08/17
劇団ニコルソンズ 第3回公演 「グッバイ・エイリアン」  @大和田伝承ホール 2012/08/10

※本文中に激しくネタバレ含みます!
 上演中の公演についてこれから観劇予定の方は閲覧ご遠慮ください。


STUDIO HeadZ 8月公演
「鴉命(ウンメイ) 言葉と景色と色の中に」

2012/08/21更新  ≪高円寺明石スタジオ≫ ≪STUDIO HeadZ≫ ≪2012/08

STUDIO HeadZ 8月公演 「鴉命(ウンメイ) 言葉と景色と色の中に」

STUDIO HeadZ 8月公演 「鴉命(ウンメイ) 言葉と景色と色の中に」

【脚本・演出】
Yukey-A

【キャスト】
<Aキャスト>
堀米慎、大部恭平、佐藤文彦、松藤拓也、木村峻、山本恭平、丸尾将也、佐藤祥太、塩島弾、
浅野東(フレンズプロダクション)、早島敦也(劇団ORIGINAL COLOR)、
井上直輝(企画ユニット KAMAYAN)、加藤淳、下祐平、前田大志、前田裕己、
若林康路(劇団NoN-SpoiL)、須藤勇輝(アルファコア)

<Bキャスト>
新井惟、三浦恵莉香、久田幸恵、川島唯、宇都恵利花、三輪紋子、ゆいともえ、赤月茜、
小澤知佳、小出美紀(EARLY WING)、小林美歌(アトム座)、理沙(STAR)、山田志保、眸、
岩崎奈菜(アルファコア)、加順遥、森下理沙(スピカエージェンシー/電脳シロアリ・プロジェクト)

【日程・会場・チケット】
<東京公演>
高円寺明石スタジオ

2012年
8月16日(木)18時半A
8月17日(金)18時半B
8月18日(土)12時A / 18時半B
8月19日(日)12時B / 17時A

前売 3,000円
当日 3,500円

<札幌公演>
札幌シアターZOO
9月1日(土)13時 / 17時

前売 2,000円
当日 2,500円

【公式HP】
STUDIO HeadZ 公式HP

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ひとつの公園内で起こる4つの話のオムニバスのような構成になっていて、
それぞれの運命をカラスなる異質な存在が傍観しているお話。

1.自分が目を離した隙に弟がさらわれて死んでしまったことを後悔し続ける少女と
 それが気になった少年、その友達、少女の父親の物語
2.二人の女性とそれを弄ぶ浮気男、そして女性を追いかけるストーカー男の
 ドロドロの愛憎劇
3.歌手の夢を追うあまり悪徳プロダクションに体を売ることになってしまう少女、
 その友人、悪徳プロデューサーと仕事に疑問を抱く部下の話
4.水商売に染まり自分の笑い顔さえ忘れてしまった女性と
 その友人、田舎の幼馴染の話

2、3、4、は登場人物全員が死んでしまうという悲惨な結末に。
カラスはそのたびに悲しそうに歌う。
最後のまとめになる1では救いがあり、
過去を悔やんでも仕方ないという前向きな気持ちになって万事解決。

あまりにもざっくりだが、おおまかにはそんな感じのお話だった。



・・・うーん、キツかった。


役者はかなり若い者ばかりで、みんな演技も歌もダンスも技量不足。
声量は小屋のサイズに見合っていない役者が多かったし、
台詞の表現ももう棒読み同然の者が半数を占めた。
歌は素人の自分でもわかるぐらい音程もリズムも外れているときが多くあったし、
ダンスはお世辞にも揃っているとは言い難い。


まぁ若い役者の集まりだし、芝居の熱量はあったのでそのあたりは大目に見ようと思うのだが、
いかんせん何とも許容しがたいのが脚本・演出である。

まずカラスの存在。
タイトルも「鴉命」、オープニングの群唱でもカラスについて仰々しく語っているのに
芝居中の役割がただの傍観者というのは一体何なのか。
登場人物のやりとりに対して極めて人間的な安いリアクションをしているため
特別な存在感も感じず、ただのデバガメの人にしか見えなかった。
最後までシーンの切れ目で同じ歌をひたすら歌うだけのヘンな人。

次に全員死亡する悲劇の3連発。
「悲劇を続けておいて、最後の1の話も悲劇になると思いきや・・・」 みたいなのが狙い?
しかしひとつひとつの話のクオリティが低すぎて、コントにしか見えなかった。
話は何十年も前からよく見かけるよねってぐらいにベタなものばかりだし、
つっこみどころがあまりにも満載すぎる。

一目でおもちゃの引っ込むやつってわかる小道具のナイフ、
爆弾持ってるストーカーに「やめてー!」って言ってわざわざかぶさりに行く女性、
タレントが用済みになったらポンと拳銃取り出して始末しようとする悪徳プロダクションの人、
それを阻止するためにこれまたポンとバッグから拳銃出す部下の人。
友達が薬で自殺したら、その場でそれを追いかけて一緒に死ぬ友人と田舎の幼馴染。

刃物と爆弾と銃と毒薬が飛び交って、こぞってみんな死んでく、
なんてデンジャラスな公園。
いわくがつきすぎて閉鎖んなるわそんなとこ(笑)
やってることが安っぽい上にムチャクチャ過ぎる。

あとどのシーンでもほぼ誰かが覗き見をしているってのがシュール過ぎ。
しかもどう見てもその位置は見つかるよねって場所に隠れてるし。
「そこは芝居の嘘」なんて言葉でごまかせるレベルをはるかに越えているよ(笑)

そしてラストの全ての役者が登場してのダンスシーン。
最後、1の話でたしかにハッピーエンドにはなったが、
それ以外の悲劇で無残な死を遂げたメンバーが満面の笑みで踊っているのは
かなり違和感があって気持ち悪かった。
オープニングダンス、芝居本編、エンディングを通したテーマがさっぱりわからない・・・。


全体を通してみたとき、とにかくマイナス方向に気になる部分が多すぎた公演だった。
前売3,000円、当日3,500円取っていいクオリティにはほど遠いと言わざるを得ない。
発表会の域を出ていない。


あと公演そのものの話とはズレるのだが、公式HPの公演特設ページもひどい。
まず黒背景に濃いグレーの文字色を選択する神経がわからない。
ダブルキャストのはずなのにその旨はどこにも書いていないし、
メンバーのチーム分けも、どの日程がどのチームの回かも記載がない。
土曜15時っていう存在しない日程も誤掲載されているし、
「※両方、地図入れてもらえる?」っていうメモ書きみたいなものまで残っている。
会社概要ページのテキトーさや、プライバシーポリシーの内容もひどい。
お客を見据えたモノ作りのプロとして、意識が欠如しているとしか思えない出来。
公演うんぬんの前に、こういうところから何かズレてしまっているのは正直悲しい。



・・・いろいろ厳しいことを書いた。

おそらくこの記事は関係者の目にも止まり、ショックや憤りを与えてしまうであろう。
しかし一人の観客として見て、自分が正直に思ったことを書いている。
誹謗・中傷の意図は全くないことは信じてほしい。

こういう感想を持った人間がいたという事実だけはちゃんと受け止めてほしい。
それを踏まえた上で、次回、次々回と成長した姿を見せてほしいと願う。
表現者がそういう姿勢を失えば、業界は着実にお客を逃がし、
衰退していくだけでしかないのだから。


 


芝居塾記念公演
「紅い海、剣と十字架 天草四郎物語」

2012/08/20更新  ≪神奈川県立青少年センター ホール≫ ≪青少年のための芝居塾≫ ≪2012/08

芝居塾記念公演 「紅い海、剣と十字架 天草四郎物語」

芝居塾記念公演 「紅い海、剣と十字架 天草四郎物語」

【演出】
土井宏晃

【脚本】
重信臣聡

【キャスト】
菅本生、眞野基範、凪達矢、米澤良樹、堀浩隆、亜耶野、高橋範行、
須佐光昭、宮内咲希子、村上亮、山内琴実、秋山静、秋吉徹、織田裕之、
小林祐美、村井彩子、相澤亜紀、飯塚美花、石島英一、岩本恵、植松南美、
内田雄馬、大貫真代、海谷奈津実、木下恵美、木下春香、工藤正平、
坂口裕美、坂田奈津希、佐々木龍馬、渋谷由利香、鈴木翔子、鈴木美帆、
高橋広行、田黒杏海、田島利佳、橘沙和、田中清志郎、豊田結、西村隆主、
能勢さや、野中春菜、萩原詩穂、早川蓉子、林田淳、披岸克哉、二子石純、
松下泉、丸山夏輝、南千春、宮本綾乃、柳沢光華、和田志郎

【日程】
2012年
8月18日(土)、19日(日)

【会場】
神奈川県立青少年センター ホール

【チケット】
前売・当日 2,500円
高校生以下 1,000円
全席自由席

【公式ページ】
青少年のための芝居塾 公式ページ

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天草の乱のお話。

キリシタンが弾圧を受ける世の中で、天草四郎が人々の象徴になる。
しかし四郎の恩師であるジョアン宣教師が幕府に処罰されてしまったりと
状況は日々悪化していく一方。
最終的には篭城していた砦も幕府に攻め入られ、民衆ともども天に召される。

天草四郎が宮本武蔵の娘、凛と出会って恋に落ちたりなどの
オリジナル部分もあるが、基本的には世間で知られる天草の乱の史実通り。
人々の信仰、それ以上に生きながらえたいという感情、それを指揮する人間、
裏切る人間、いろんな人間の生き様を描いたミュージカル。

まぁ大体こんな感じの作品だった。


青少年のための芝居塾というのは、
一般公募で集めた青少年に、演技だけでなく裏方の仕事などを学ばせながら
ひとつの作品を作っていく創造型の事業である。

今回の作品は、神奈川で活動している「風雲かぼちゃの馬車」を責任集団とし、
合同でひとつの芝居を作り上げるというスタイルをとっているものなのだ。

そのため出演するキャストは若い10代20代の者が多く、
正直言って技量は皆高くはない。
そのため、それほど期待して見に行ったわけではないというのが本音だ。


しかしその期待は良い意味で裏切られた。

開幕と同時に始まる民衆の歌。
天草四郎を中心とした、弾圧に苦しむキリシタン農民の歌なのだが、
感情をむき出しにしたその歌はこちらの感情を大きく鷲掴みにしてきた。
思わず鳥肌がたつぐらいだった。

その後の芝居部分ではやはり技量不足の面が目立つところも多かったのだが、
感情を思いっきり解放して客席にガンガン飛ばしてくる皆の演技は評価したい。
演技としては下手なのかもしれない、
しかし間違いなくこちらの心を動かしてくる何かがあるのだ。

これは演出の力でもあると思う。
盆を使った場転もスピーディーで鮮やかだし、
民衆がうじゃうじゃいる多人数シーンも整っていて見やすい。
普通は多人数のシーンというのは綺麗に作り上げるのが難しいものなのだが、
きちんと整っていて、しかもその整理の仕方もあざとくないのだ。
だからこそ飛ばしてくる感情が遮蔽されることなくこちらまで届いてくる。


ただ、とても残念に思ったのはソロを歌う人間の歌唱力。
ミュージカルとしてソロを歌って許されるレベルの歌唱力を持つ人間が
ほとんどいないのはちょっとキツイ。
とくにメインの天草四郎や右衛門作が歌うたびに場が萎えるのは致命的に思った。

ちなみにこのソロで歌うような大きい役 (つまりオイシイ役) は
ほとんど塾生ではなく、風雲かぼちゃの馬車の人間が演じていた。
メインの役は実力のある者が演じないと芝居として成立しないのはわかるが、
それほど彼らが演技力・歌唱力についてズバ抜けている印象はなかった。
どちらかというと天草四郎役なんかは「なぜ彼が主役?」って思えるぐらい。

もっと芝居塾の塾生に大きな役をやらせてあげても良かったのでは?
将来を見据えたチャンスを与えるという意味でも。
もちろん私はこの企画公演の内情を把握しているわけではないので、
所詮何も知らない外部の人間の一意見でしかないが。


 


劇団メリーゴーランド 音楽劇「夢守の鍵」・ストーリーショー「エターナル・シー」

2012/08/19更新  ≪文京シビック小ホール≫ ≪劇団メリーゴーランド≫ ≪2012/08

劇団メリーゴーランド 音楽劇「夢守の鍵」・ストーリーショー「エターナル・シー」 劇団メリーゴーランド 音楽劇「夢守の鍵」・ストーリーショー「エターナル・シー」

劇団メリーゴーランド 音楽劇「夢守の鍵」・ストーリーショー「エターナル・シー」

【脚本】
平野華子(音楽劇)、俵ゆり(ショー)

【演出】
仲由恵(音楽劇)

【キャスト】
羽良悠里、華波蒼、綾庭来美、夢音かりん、紗蘭広夢

【日程】
2012年
8月17日、18日

【会場】
文京シビック小ホール

【チケット】
前売・当日 3,000円
小学生以下 2,500円
全席指定席

【公式ブログ】
劇団メリーゴーランド 公式HP

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舞台は19世紀末のロンドン。
探偵事務所には探偵マイクとその従兄妹の占い師オリヴィアがいた。
そこに王族の秘宝を探して欲しいというリリー、
他人の夢に入れる不思議な鍵「夢守の鍵」を暴漢に奪われたため
探してほしいというアネットがそれぞれやってくる。

二つの依頼を進めていくうちに、リリーはいま失踪騒ぎになっている王女、
さらにアネットは理由あって王族を離れて育てられたリリーの姉妹であることが判明。
王族の秘宝=夢守の鍵であり、犯人はアネットのことを想って行動した
アネットの育ての父であったことがわかる。
親子愛、姉妹愛を描いた音楽劇。

第一部の「夢守の鍵」については、そんな感じのお話だった。


音楽劇と名乗っていたのでもちろん途中で歌が多数挿入されるのだが、
ミュージカルのようにガッツリ曲を歌うというよりは、
様々な箇所で台詞をリズムに乗せてしゃべってるって部分が多かった。
曲を歌うのではなく、台詞にリズムがついてるって感じ。
半オペラってニュアンスがピンとくるかもしれない。

台詞の発し方、立ち振舞い、そしてメンバーの芸名。
宝塚やそれに類似したものを意識しているのであろうか?
しかし正直スケールやクオリティの追いついてなさが目立つ舞台であった。

ちょくちょく台詞を歌としてリズムに乗って歌うわけだが、
「なんでこの台詞を歌ったんだろう」という違和感が終始感じられた。
ミュージカルなどにおいては歌に入るときは、必ず「歌にいくための空気」を作る。
登場人物の感情の爆発だったり、シーンの緊張感だったり、
何かしら歌にもっていくための動機が必要なのだ。

しかしこの舞台では当たり前に空気を吸うように台詞を歌い、
「この台詞は普通に喋るけど、この台詞は歌う」、その理由が全く見えない。
理由なくメロディに乗せただけの台詞にお客が心を打たれるわけがない、
そんなこと考えなくてもわかりそうなものなのだが。

「音楽劇」の定義は昔からあいまいであって、
どれぐらい歌うのかという部分も明確化はされていないが、
どうも損なやり方を選んでしまっている感がいなめなかった。


第二部のストーリーショーでは芝居部分は最小限にされ、
ほぼ歌とダンスのみで構成された40分程度のショーになっていた。

照明がやや地味だったことと、キャストが5人しかいないこともあって
少々こじんまりとしている感はあったが、方向性はしっかりとしていてまとまっていた。
曲もテーマを持って作られているためクオリティが高く、耳にも残る。


うーん、個人的にはこちらのショーのほうをもっと膨らませていったほうが
劇団の公演としては良いのではないだろうか?
もちろんそんなことは余計なお世話でしかないのだが。

どうもメインである第一部がお客の心を動かすためでなく、
やりたいことやってる自己満足に見える部分が多かったもので。
「華やかな芸名で華やかな舞台をやりたい」だけではいずれお客は離れていっちゃうでしょ。


 


川崎インキュベーター主催公演
「光る時間(ひかるとき)」

2012/08/17更新  ≪ラゾーナ川崎プラザソル≫ ≪川崎インキュベーター≫ ≪2012/08

川崎インキュベーター主催公演 「光る時間(ひかるとき)」 川崎インキュベーター主催公演 「光る時間(ひかるとき)」

川崎インキュベーター主催公演 「光る時間(ひかるとき)」

【脚本】
渡辺えり

【演出】
秋葉舞滝子(SPIRAL MOON)

【キャスト】
星達也、鈴木千賀子、延田知香、城戸啓佑、宇野仁美、西村めぐみ、滝沢信、後藤隆宣、
赤嶺鬼若、ひとみまさこ(A)、中野聡子(B)、為平康規(A)、五来英顕(B)

【日程】
2012年
8月10日(金)19:30(A)
8月11日(土)14:00(A)、18:00(B)
8月12日(日)14:00(B)

【会場】
ラゾーナ川崎プラザソル

【チケット】
前売・当日 3,000円
川崎市民・川崎インキュベーター会員・60歳以上 2,500円
全席自由席

【公式ブログ】
川崎インキュベーター「光る時間」 公式ブログ

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舞台はとある旅館の一室から。
姉とその弟夫婦が自分達の両親をねぎらうために家族旅行で訪れていた。
父が70歳の誕生日であるためその誕生祝いも兼ねていた。

しかしタイミングが悪く、旅館はいたるところで工事中、
部屋の中も騒音がひどくてとてもくつろげる状況ではない。
せっかくの家族旅行がうまくいかない弟はずっと機嫌が悪い。

そこに父の友人を名乗る老人たちが次々と現れて勝手に宴会を始めてしまう。
父が自分で呼び集めたらしいが、半分ボケているため本人はそれを思い出せない。
母はいつものことだからと納得し、姉弟は家族水いらずのはずなのにと困惑。

話が進むうちに、彼らは戦時中に生死を共にした友人達だとわかり、当時の回想シーンへ。
友人の戦死や兄の収監とその死、爆撃される工場への理不尽な待機命令。
工場で死の危機を乗り越えたときにされた約束が、
実はこの70歳の誕生日に果たされるものだということがわかる。

ざっくり言うとそんな感じのお話。


舞台は旅館の8畳間が中央奥に作られており、
上手や下手の脇のほうはただの暗い空間。
前半1時間の旅館シーンの間はこの状態が続くのだが、正直寂しい感じがした。
これだけ大きなハコでこういうセットを組むと視覚的に非常に遠く見えてしまうし、
脇の暗い空間に意味が全くないため、空間の無駄遣いにしか思えなくて残念。

戦時中の回想シーンに入ると奥の壁パネルが倒れて
屋根の上になるという仕掛けがされていた。
その仕掛けはダイナミックで転換も早くて 「おおっ」と思った。
ベタではあるが、しっかりと作られた良い装置だと思う。

脇の空間はここからはサスを入れて登場人物の独白などに使われているのだが、
これはイマイチ効果的には思えず。
もっと小さな劇場でやって脇の空間なんてなくしてしまったほうが良かったのではないだろうか。
もしプラザソルでやらなければいけないという制約があったのなら、
もうちょっと違う舞台装置の構成を考えるべきだと思う。


話的には序盤でお客を掴めなかったのが痛手だったように感じた。

70歳の老人を演じる役者が軒並み20代か30代にしか見えなかったという
見た目の問題もあったたが、どちらかというと会話が回っていなかったのが大きな問題。

振り回す立場、振り回される立場が明確になっていて
そのやりとりの妙で笑わせることができる部分がいっぱいあるのに
それを取りこぼしまくっているのだ。

台詞の投げ方が上手い役者が少なかったせいでもあるが、
なにより振り回される弟が「怒り」を前面に押し出し過ぎているのが大きな原因だと思う。
漫才でツッコミがブチ切れていたら笑えないのと一緒。
振り回される側は「怒り」以外で「振り回されている」を表現しなければ見ている側は笑えない。

そのため老人の横暴に弟がただキレまくっているという、
見ていてただ居心地の悪いシーンになっていた。
コメディとまでは言わないが、お客が楽しくドタバタを見れるように仕上げられれば良かったのに。
これでは弟はもちろん、振り回している側の老人達も悪に見えてしまい、
お客は彼らに嫌悪感しか感じなくなってしまう。

そして老人達に悪い印象を持たれたまま回想シーンに入ってしまっては、
そこで生きる彼らの若い姿に共感なんて得ようもない。
後半の回想シーンが大事なはずなのに、
この時点で作品として全体的に破綻してしまうのだ。

実際どうしても自分は登場人物達に感情移入ができず、
どんなに良い台詞を聞いてもイマイチ心に響いてくることはなかった。
伝えたいメッセージがあるからこそ、この時期にこの作品を演ったのだと思うのだが・・・。
なんだか残念な仕上がりの作品になっていたように感じた。


あと父役と、若い頃の父役を別の役者が演じていたのはどういった事情だったのだろうか。
趣味の問題、演出の都合、政治的な事情、いろいろあるだろうが、
この点についてだけは、100%同じ役者が演じるべきであったと断言したい。
別人で演じ分けることで作品が持つ意味はゼロであろう。


見ていていろいろ疑問符が出てしまった作品だった。
個人的な要望として、あまり戦争物の作品でコケてほしくない気持ちがある。
忘れてはいけないものだから、それの伝え方ももう少し丁寧にしっかりやってほしいと思った。


 


劇団ニコルソンズ 第3回公演
「グッバイ・エイリアン」

2012/08/10更新  ≪大和田伝承ホール≫ ≪劇団ニコルソンズ≫ ≪2012/08

劇団ニコルソンズ 第3回公演 「グッバイ・エイリアン」

劇団ニコルソンズ 第3回公演 「グッバイ・エイリアン」

【脚本・演出】
木下半太

【キャスト】
片桐仁(ラーメンズ)、火野蜂三、赤星まき、堀ノ内晴子、望月優、玉上鈴子、
立山誉、愛下哲久、田尾寅吉、古城青大、西郷豊(The Dusty Walls)、
山本真由美、安田ユーシ、山田能龍(山田ジャパン)、鬼塚俊秀、
土佐和成(ヨーロッパ企画)、原敏一(劇団赤鬼)、下村和寿(劇団赤鬼)

【日程・会場】
○東京公演
 2012年8月8日(水)〜12日(日)
 渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール

○大阪公演
 2012年8月24日(金)〜26日(日)
 ABCホール

【チケット】
前売 4,500円
当日 4,800円
全席指定席

【公式HP】
劇団ニコルソンズ 公式HP

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1974年8月、大阪の千里ニュータウンの団地で、UFOの目撃談が集まる。
しかし、その目撃談は、天才だがむっつりスケベの物理学者・星野(片桐仁)と
天才だが陽気なスケベの詐欺師・岡安(火野蜂三)の“犬猿の仲コンビ”による仕業だった。
共通点はスケベだけ。
ある家族を救う為、喧嘩を繰り返しながらも嘘を作りあげていく。
浪速の女刑事・鳳(赤星まき)の捜査が迫る中、嘘は収拾がつかないほどに大きくなり、
とうとう日本政府やNASAまで巻き込む大事件に発展する・・・。
この夏、話題沸騰の劇団ニコルソンズが贈る、昭和人情エイリアン喜劇。
座長は悪夢シリーズ(幻冬舎文庫)などで活躍するベストセラー作家・木下半太。
本人は「映画化を狙ってます。あとモテたい」とスケベ心丸出しで息巻いている。

以上公式HPから抜粋したあらすじ。


ラーメンズの片桐仁、火野蜂三をはじめ、非常に個性的な役者が多かった。
しかも一人一人が実力を持っているのでどのシーンも見所が多く、
終始ダレることなく面白かった。

話の展開も楽しいし、次々におかしな人達が登場して
主人公の片桐仁をとことん振り回していく。
振り回しているほうも面白いし、振り回される片桐仁のリアクションも本当に秀逸。
笑わせ方がとにかく上手い集団だった。

火野蜂三のスローなしゃべりだけちょっとテンポ的に気になったが。
でもそれが理由で面白い箇所も多いのでこのへんは好みなのかな。


気になってしまったのはストーリーの主軸のほう。
なんだかなぁと思う点がけっこう多かった。

あらすじでは、天才物理学者と天才詐欺師のタッグが
ものすごい騒動を巻き起こすみたいに書かれていて、
当然それがこの公演の一番のメインの盛り上がり部分だと思ってしまうのだが、
実際にはそれほどでもなかったのが残念。

天才物理学者と天才詐欺師が結託して世間に対してUFO騒動を仕掛けにいくのだが、
仕掛けていく内容がギャグに走って陳腐すぎて、見所には全然なっていなかった。
せっかく天才同士のコンビなんだから、天才的な発想の仕掛けを見せて驚かせてほしかった。
これだったら天才設定いらないじゃん。

UFO騒動自体もラーメン屋の中で仲間内で騒いでいる描写しかないため、
視覚的には狭いコミュニティでの内輪話にしか見えないし、
セリフだけで「日本政府やNASAが動いてる」って言われてもインパクトがない。

そしてUFOキチガイのお父さんの屋根の上での会見。
会見の内容・演技ともに非常に熱くて素晴らしかったのだが、
それまでの段階でお客に与えているお父さんの印象が
「UFOキチガイの狂った自己中のおっさん」でしかないのがよろしくない。
お客に「このお父さん救われてほしい!」と思わせる作業がされていないため
どうしても感情移入がし辛く、盛り上がりがもう一歩だった。


あとお父さん関連の話が終わった後の悪徳刑事の話が非常に蛇足に感じた。
メインのお話が終わってそろそろ終演かなと思ったあとに
別の話が20分も続けばお客は気持ち的に萎えてくる。

このへんの話自体も不自然過ぎてよくわかんないし。
市民に手をあげているところを同僚刑事に見られてる時点でチェックメイトなのに、
その後に「弟がどうなってもいいのか!」って脅す意味がわかんない。
それ人質として成立しないでしょ。

なので、その弟は実はニセモノで詐欺師が仕組んだ別人でしたって言われても
その発想の凄さがイマイチ伝わってこない。

しかもニセモノって判明して
「・・・じゃあ、お前、いったい誰なんだ!?ゴクリッ・・・」
ってときにかかるものすごい重々しいBGM。
恥ずかしながら自分は「ここで宇宙人出してくるか!意表突かれた!」って思って
鳥肌が立って、しかもただの詐欺師の友達って知ってガックリきた人である(笑)
これ自分だけじゃないと思うのだが。


個人的には悪徳刑事の話を省いて、UFO騒動関連部分をもっと練ってほしかったと思う。
タイトルも「グッバイ・エイリアン」なわけだし。
キャスト面やストーリー面で何か大人の事情があったのだろうか?
ちょっと話を横に拡げ過ぎてまとまらなかった感が残ってしまった。

全体的に面白かっただけにそのへんだけが残念。


 

◎日々是劇評

劇場

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KAAT 神奈川芸術劇場 ホール
KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
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シアターコクーン
シアター風姿花伝
シリウス・ビー
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下北沢 OFF・OFFシアター
下北沢 シアター711
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新宿シアターサンモール
新宿シアターブラッツ
新宿シアターモリエール
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神奈川県立青少年センター ホール
神奈川県立青少年センター 多目的プラザ
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企画ユニットあいてむぼっくす
空想組曲
空想天象儀
芸術集団れんこんきすた
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子供脳みそ
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青少年のための芝居塾
川崎インキュベーター
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張ち切れパンダ
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