日々是劇評

関東圏内で観劇した舞台について率直に感想を書いています。
自分用の備忘録みたいなもんなんで遠慮なく辛口な批評もしています。

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ナイロン100℃ 40th SESSION 「わが闇」  @KAAT 神奈川芸術劇場 ホール 2013/07/23

※本文中に激しくネタバレ含みます!
 上演中の公演についてこれから観劇予定の方は閲覧ご遠慮ください。


ナイロン100℃ 40th SESSION
「わが闇」

2013/07/23更新  ≪KAAT 神奈川芸術劇場 ホール≫ ≪ナイロン100℃≫ ≪2013/07

ナイロン100℃ 40th SESSION 「わが闇」 ナイロン100℃ 40th SESSION 「わが闇」

ナイロン100℃ 40th SESSION 「わが闇」

【作・演出】
ケラリーノ・サンドロヴィッチ

【キャスト】
犬山イヌコ、峯村リエ、みのすけ、三宅弘城、大倉孝二、
松永玲子、長田奈麻、廣川三憲、喜安浩平、吉増裕士、
皆戸麻衣、岡田義徳、坂井真紀、長谷川朝晴

【日程】
神奈川公演
2013年7月23日(火)
(ほか東京公演〜名古屋公演は6月22日〜7月31日)

【会場】
KAAT 神奈川芸術劇場 ホール

【チケット料金】
前売・当日  6,500円
U25チケット 4,000円
R65チケット 5,000円

【公式HP】
http://www.sillywalk.com/nylon/

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三十余年前。
柏木家は、人口1000人にも満たない小さな村「御五色村」に引っ越して来る。
小説家である柏木信彦には三人の娘がいた。
長女・立子は齢10歳にして文壇デビュー。
同業者として、信彦は立子に嫉妬の念を抱いていた。
一方で、妻の基子がふとした事で情緒不安定に陥るようになり、
ある事柄をきっかけに自らの命を絶ってしまう。

月日は流れ、現代。
病床に臥せた信彦のドキュメント・ムービーを製作する為、
二人の男が柏木家を訪れる。
一見、さしたる悩みもなく日々を過ごしているように見える
柏木家の三姉妹だったが、
それぞれが人には言えない「事情」を抱えて暮らしていた。
季節が過ぎ行く中、彼ら彼女らの「事情」が浮上してくる……。


以上、劇場のホームページに掲載されていたあらすじ。

いつものようにエンディングまでの大筋を書きたかったが、
さすがに3時間20分の上演時間の中でめまぐるしく起きる事象と、
これ以上ないぐらいに絡み合う人間関係を全部書き綴っていると
2000字、3000字といってしまいそうなので割愛(汗)

舞台は常に柏木家の居間の中を描いており、
オープニングが引っ越してきたところから母が自殺をするところまで、
そこからその30数年後の冬、春、夏とそれぞれシーンが描写されている。


とにかく人間描写が見事。

長女・立子は、子供の頃に文壇デビューして脚光を浴びたが、
父との確執ができてしまいそれに悩む。
最近では作品が冴えず連載は打ち切られ、
病気にて失明する運命を背負ってしまう。

次女・艶子は、なんでも自分で背負って穏便に済ませてしまう性格ゆえに
劣悪な夫の行動さえも理解を示して許容してしまう。
夫の不注意の火事で小さな娘を失っている。
芸術的な才能を持ちながらも長女や三女のようにそれを表に出すことができず、
ただ周りの環境に従うだけの暮らしを送っている。

三女・類子は、破天荒な性格。
芸能プロダクションに所属して女優になる。
しかし妻子ある男性と不倫してスキャンダルになり失踪、
柏木家に戻った後は酒に浸っている。
実母の死因にもなった大嫌いな義母と、自分が同じ行動をしていることに自己嫌悪。

この三姉妹を軸にして、
引越し当初から柏木家に仕え続ける三好、
艶子の夫で暴力や暴言が絶えない最悪の性格を持つ寅夫、
病床に伏せた父・伸彦のドキュメンタリーを撮りに訪れる滝本、
その撮影スタッフの大鍋、プロデューサーの飛石、
立子に恋をする立子担当の雑誌編集者・皆藤、
兄の恋路を心配する皆藤の妹、
信彦の再婚相手で、結局は家族を捨てて出て行った志田、

とにかくいろんな事情を抱えた人間が
次々に柏木家を出入りして物語が紡がれていく。


母の精神障害と自殺、父親の再婚、その再婚相手の失踪、
文壇としての父との確執、仕事、病気、恋愛、結婚・離婚、暴力、
これでもかというぐらいに重くて暗いテーマが盛りだくさんなのだが、
その中で笑顔を見せて一生懸命に生きている人間の姿が
観ている側の心をガンガン揺さぶってくる。

特に前半ラストの雷雨の夜に大音量でBGMをかけながら
みんなで踊り楽しんでいるシーンは印象に残った。
辛いことをいっぱい抱えている人間達がみせる感情解放。
表情こそ皆笑顔なのだが、そこには計り知れないぐらいの複雑な感情が隠れていて、
観ていて本当にせつない気持ちでいっぱいになった。


役者の中では、大倉孝二演じるカメラマン・大鍋と、
松永玲子演じるプロデューサー・飛石がかなりズルイ存在だった。
とくに大鍋のほうは、もう後半はしゃべるたびに笑いが起こるぐらいに
ブッ飛んだ存在になっていてとにかく圧巻。

残念に思ったのは岡田義徳が演じた滝本。
ストーリーテラーの役割をしているにも関わらずに滑舌が悪いのは致命的。
作品のクオリティが完璧に近いだけに、そういう部分が非常に目立つ。
そんなつまんない部分で作品に水を差してしまうのはもったいない。


あ、個人的には、滝本がストーリーテラーを務めるのは
なんだかなぁという感じがあった。
滝本は今回のドキュメンタリー映画作りに命をかけていたが、
この作品に固執する理由がいまひとつわからないし、
飛石のヒモになっていて億近い借金があるというだらしない面も手伝って、
どうもこの滝本という人間に共感しづらいのだ。

そんな共感しづらい人間が要所要所で柏木家の出来事を
したり顔で語っている姿に大きな違和感を感じてしまった。
あと前述したとおり滑舌悪いし(苦笑)

別に三好さんがアホな感じでストーリーテラーやってくれても良かったような(笑)
どちらかというと自分はそっちのパターンのほうが観てみたいと思う。
いろいろやってくれて面白そうだもん。


ほか、やはり秀逸だったのは映像と照明の使い方。
プロジェクションマッピングを使った転換は見事で、
心情を表現する毒々しい効果音とともに明かりの中に人間が消えて行く姿は
夢に出そうなぐらいに脳裏に焼きつく。

立子の深層意識に現れる伸彦の姿が溶けるように消えたシーンでは、
映像だと気付いていなくてリアルでハッとしてしまったし。

ここまで舞台効果で心を揺さぶられたのは初めてかもしれない。
こういう部分のセンスもたまらなくいい。


観終わった後にとてつもなく充実感を残してくれた良い作品だった。
今回が20周年記念、40回目の公演だったようだが、
こういった団体が息長く、しかも息切れせずに走り続けてくれていることは本当に嬉しい。

これからもずっと良い作品を提供し続けていってほしい。


 

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